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56話 小さな準備

Auteur: 八月 猫
last update Date de publication: 2026-07-25 09:00:04

 会社に着いてからも、朝の悠斗の言葉が耳に残っていた。

 ――距離あるなって思った。

 責める声ではなかった。

 寂しそうで、でも、どこかで分かっているような声だった。

 距離がある。

 その通りだった。

 同じ家で眠って、同じ朝を迎えて、同じ駅へ向かって歩いているのに、私たちの間にはもう、見えない線が引かれている。

 その線を、私は越えたいのだろうか。

 それとも、もう越えられないのだろうか。

 午前中の仕事を終えて、昼休みにスマホを開いた。

 メモアプリには、昨日打ったままの一文が残っていた。

『私は、どうしたい?』

 その下は、まだ空白だった。

 私はしばらく画面を見つめた。

 別れたい。

 その言葉を打とうとして、指が止まる。

 嫌いになったわけじゃない。

 悠斗は変わろうとしている。

 今さらだとしても、ちゃんと向き合おう

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  • 『尽くしすぎたのでやめました。今さら後悔しても遅いです』〜帰らない人を待つのは、もうやめます〜   第9話 大丈夫の癖

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  • 『尽くしすぎたのでやめました。今さら後悔しても遅いです』〜帰らない人を待つのは、もうやめます〜   第2話 冷めた唐揚げ

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  • 『尽くしすぎたのでやめました。今さら後悔しても遅いです』〜帰らない人を待つのは、もうやめます〜   第1章 第1話 今日はご飯いらない

    玄関のドアを開けた瞬間、部屋が暗いことに気づいた。 午後九時過ぎ。 いつもならテレビの音がしている時間だった。 「……ただいま」 返事はない。 分かっていたことなのに、少しだけ肩の力が抜ける。 私はヒールを脱いで揃える。 その横には、朝履いていった悠斗のスニーカーが無造作に転がっていた。 ――また。

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